医療保険のコアは、入院保障です。
その入院保障のコアは、入院1回当たりの保障日数です。
これは、1回の入院で60日保障してもらうか、120日保障してもらうか、あるいは、それ以上の日数を保障してもらうか、という部分です。
この『入院1回当たりの保障日数』を決めるに当たり、多くの人は平均入院日数を参考にしますが、もっと良い参考資料はないのでしょうか。
◆医療保険の今までの選び方
今までは、平均入院日数を参考にして入院日数が選択されてきました。
多くの人は、平均入院日数が30日ほどだから、2倍の60日も保障しておけば十分だと言います(60日型の信奉者)。
また、少なくない人が、脳卒中などの脳血管疾患の平均入院日数は90日ほどだし、がんは再入院率が高いから、120日型にしておいたほうが良いと言います(120日型の信奉者)。
また、少しの人は、精神疾患の平均入院日数は300日ほどだから、365日型や1095日型が良いと言います(1095日型の信奉者)。
◆今までの選び方への疑問
今までの医療保険の選び方は、一見すると理に適っており、分かりやすく、信頼できそうです。
しかし、少し考えると疑問が浮かんできます。
60日型の信奉者に対する疑問は、平均的に30日だとしても、再入院率は考慮されていないし、90日間入院してしまう脳血管疾患は『平均』で片付けてよい問題なのか、という点。
120日型の信奉者に対する疑問は、脳卒中やがんは取り上げるのに、その他の病気は取り上げないのか、という点。
また、他の病気の再入院率は本当に高くはないのか、再入院は気にするのに転院は気にしないのか、という点。
1095日型の信奉者に対する疑問は、精神疾患が危険なのは分かったが、仮に精神疾患で入院する患者が1億人に1人の割合なら、わざわざ保障する必要はないのではないか、という点。
◆疑問の原因は、見ているデータが異なるから
今までの選び方で疑問が浮かぶ原因は、信奉者の説明ごとに参考としているデータが異なるからです。
60日型の信奉者は、全ての病気の平均入院日数を参考にしています。
120日型の信奉者は、三大疾病などの患者数の多い有名な病気を挙げて、その平均入院日数と再入院率を参考にしています。
1095日型の信奉者も、個別の病気の平均入院日数を参考にしているのは120日型と同じですが、この場合は患者数が分からないと判断できません。
なぜならば、三大疾病のように『多くの人が亡くなっている』という認知度が高い病気なら『保障が必要だ』と直感的に分かるものの、精神疾患のようなメジャーではない病気だと、患者数の多寡が分からないので、保障する必要があるのか判断できないのです。
◆医療保険の新しい選び方
このように、医療保険の今までの選び方では、参考にするデータが色々あって、入院日数を基礎としながらも右往左往してしまうのです。
それなら、色々な参考データを一つに纏めてしまおうではありませんか。
病気ごとに、平均入院日数、入院患者に占める割合、再入院率、転院率を算出して、全部のデータを掛け算しましょう。
そうすれば、入院が長くて、患者も多くて、再入院や転院も多い病気、すなわち入院危険度が高い病気が分かります。
また、この方法なら、入院期間は長いが患者数がとても少ない病気は危険度が低くなるので、効率的に客観的に危険度を計れます。
そして、こうして算出された入院危険度の高い病気は、いの一番に医療保険で保障しなければならない病気でしょう。
危険度の高い病気の入院日数や再入院率を見ながら、医療保険の保障日数を選ぶべきです。
病気の入院危険度を参考にするという医療保険の新しい選び方は、平均入院日数だけで判断されてきたこれまでの選び方よりも、よほど合理的です。
◆入院危険度の高い=入院保障すべき病気ランキング
入院危険度 | 傷病名 | 平均 入院 日数 | 患者割合 | 転院率 | 再入院率 |
---|---|---|---|---|---|
817 | 統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害 | 561.1 | 1.0% | 14.5% | 10.5% |
404 | 脳血管疾患 | 93 | 4.3% | 18.8% | 5.4% |
274 | がん(悪性新生物) | 20.6 | 16.2% | 3.3% | 25.0% |
153 | 神経系の疾患 | 76.2 | 3.2% | 8.2% | 7.7% |
54 | 糸球体疾患,腎尿細管間質性疾患及び腎不全 | 35.9 | 2.3% | 7.5% | 8.9% |
53 | 骨折 | 41.1 | 5.1% | 13.0% | 2.0% |
44 | 心疾患(高血圧性を除く) | 21.9 | 6.5% | 4.2% | 7.5% |
25 | 肺炎 | 28.6 | 3.4% | 4.8% | 5.4% |
11 | 全傷病 | 32,8 | 0.8% | 5.3% | 8.7% |
10 | 結核 | 65.4 | 0.2% | 19.0% | 4.8% |
8 | 糖尿病 | 36.1 | 1.4% | 3.8% | 4.3% |
※全傷病の退院患者割合は、全43データの中央値。
※再入院率は退院後30日以内の再入院。
衝撃の結果が出ました。特に60日型の信奉者にとって。
60日型の信奉者は、平均危険度の80倍にもなる統合失調症のリスクを全く考慮せずに医療保険を選んでいたことになります。
仮に、全傷病の『患者割合』を中央値ではなく、16%(患者割合1位のがんと同じ)で計算した場合でも、危険度は244なので、相変わらず4倍の危険度を誇る統合失調症を無視していたことになります。
そして、仮に統合失調症を諦めるリスクとして除いたとしても、脳血管疾患の入院日数と転院率、がんの再入院率を考えると、60日型を選ぶ根拠は乏しいばかりです。
120日型の信奉者にとっても、がんや脳血管疾患といった目の付け所は良かったものの、その2倍の危険度を誇る統合失調症は完全にスル―されていたことになります。
そして、120日型でも、脳血管疾患の入院日数と転院率を考えると、不安が募ります。
1095日型の信奉者は、結果的に危険度の面では正しい選択をしたと言えるでしょう。
◆あとがき――『平均』と『中央値』
平均入院日数は便利なデータです。
しかし、入院何日を境にして、入院患者数がちょうど半々になるのか知りたいときは、平均値ではなく中央値で見る必要があります。
たまに報道されるサラリーマンの平均年収を聞いて、『あれ? 俺って薄給だな…』と思った経験のある方は多いと思います。
それもそのはず、平均年収のグラフでは、年収数億円プレーヤーが平均を引き伸ばしているため、半数を超える人が平均年収未満に所属するのです。
この理屈は、平均入院日数でも同じです。
全傷病の平均入院日数は30日ほどですが、半数は一週間以内に退院します。
ですから、平均入院日数を基準に保障日数を選ぶだけで、意外に多くの入院リスクをカバーしていることになります。
参考資料:平成23年患者調査(厚労省)